SOPP2015

 

世界は独創的なリズムに満ちあふれている。日々を彩る生活音、小鳥のさえずり、木の葉のそよぎ、誰かの声。その奥には、秒針の刻む一定の音とは異なるそれぞれの鼓動が響いている。どれもがその場その瞬間だけの特別なひびきだ。

20150517-186 たとえば同じ楽器でも弾く人によって音色は変わるし、同じ人が弾いても外気の条件や触れる指先の力、角度が違えば同じ音色が醸し出されることはない。では、それらが出合ってハーモニーを織りなしたなら? その場から一期一会の協和した美しい律動が広がってゆく。そこに祈りが流れていたなら?ハーモニーはさらに神聖さを帯び、それぞれのひびきはより本質的な輝きを増すことだろう。 「Symphony of Peace Prayers 世界平和交響曲 〜宗教・宗派を超えて、共に世界の平和を祈る」は、各宗教の祈りが織りなす多彩なハーモニーを通して、すべての宗教、信条、国籍、世代を隔てる枠が溶けて心がつながる瞬間を体験する場であり、一つになったひびきの中で、個々のリズムがより生き生きする場として10年前に始まった。 そして2015年のSOPPは、まさにハーモニーの式典となった。西洋楽器の音色に宗教音楽を融合させた演目と、10年間行なってきた「各宗教・宗派の祈り」「世界各国の平和の祈り」、そして、このSOPPの中で行なわれた「富士宣言 神聖なる精神の復活とすべての生命が一つにつながる文明へ向けて」の発足記念のプログラムを通して、それは実現したのである。

※ 富士宣言 (http://fujideclaration.org/wp-content/uploads/2015/03/DECLARATION_FujiDeclaration-Japanese.pdf) 今年の2月、アーヴィン・ラズロ博士、西園寺裕夫氏、西園寺昌美氏の3個人を代表発起人に、300人の発起賛同者と50のパートナー団体(白光真宏会もそのパートナー団体の一つ)のもと発表された個人憲章。富士宣言の発足記念祝典は、世界のパートナー団体によって行なわれ、日本ではSOPPがその舞台となった。特にデンマークに本部を置くパートナー団体、トランジッション・ワールドがクロンボー城で開催した祝典においては、インターネット中継を通して朝の富士聖地と夜のデンマークの現地を結ぶEast West Celebration というプログラムが行なわれるなど、文字通り東西をつなぐ大規模な演出となった。

2015_02

*なお、この日のSOPPに合わせたグローバルリンクの祈りの会は24ヵ国55都市で開催され、インターネットのライブ中継を通して祈りに参加してくださった方は約5,000名に昇った。ご参加くださった方々に感謝申し上げます。

 

 

 

開会挨拶

 

 

2015年5月17日。空は青く澄み透り、富士山も美しい偉容を現わしている。野外会場の緑つやめく草原には、全国各地から集まった約10,000人が座り、行事の開始を待っている。 午前10時15分。スロバキアの衣装に身を包んだスタニスラブ・ウイハジ氏が舞台の下に現われ、フヤラという名のオーバートーン・フルートを演奏。会場を包む郷愁的な音色がセレモニーの始まりを告げる。 その後、納谷智彦理事長が開会挨拶を行なった。何かが変わる瞬間に立ち会う、そんな予感が高まってゆく。

 

 

前奏曲:宇宙の響き 続いては、「ベラ・ガイア(NASAの地球観測データをアレンジした芸術映像とライブ音楽)」で知られるアメリカのクリエイター、ケンジ・ウィリアムスさんのバイオリン演奏と、シンガー・ソング・ライター、クリスティン・ホフマンさんの歌とシンセサイザーによる音楽の共演だ。虚空に放たれた一つの音はもう一つの音を誘ないながら次々と彩りを変え、地球と宇宙のあわいが融けてゆく……音楽の力で不思議な映像が目に浮かんでくるかのよう。やがてすべての音が消えると、静まった空間に鳥の声や旗の翻る音がふわっと取り戻されてゆく。

2015_06

 

『富士宣言』発起人よりご挨拶 そして富士宣言について、3名の発起人が紹介した。

2015_7

西園寺昌美 白光真宏会 会長

 

「今こそ人類は国、人種、民族、主義、主張を超えて全く一つになり、一斉に立ち上がり、この問題を解決してゆく必要があります。人類の幸せや平和は決して他から奪いとるものでもなく、神から与えられるものでもありません。人類一人一人の神性意識から創り出されてゆくものであります。人類のゴールとはその自己の真実であるその神性を再び見出し、取り戻すことにあります。かつまた、自らの魂の探究に向けての努力こそ真の人生であり目的であります」。

 

2015_08

西園寺裕夫 五井平和財団 理事長

「今回発表いたします富士宣言には、二つの大切な意識、価値観というものが述べられております。 まさに新しい文明の根底となるべき二つの価値観。その一つは人間はすべてもともと神聖にして善なるものであるという、言わば性善説に基づいた考え方であります。もう一つは、人間はお互いに、あるいは自然、あるいは宇宙とも、大きなつながりの中に生かされているのだという、いわばワンネス、一体観の意識、価値観であります。 つまり、この二つの大切な価値観、人間はすべて神聖にして善なるものであるという価値観、大きなつながりの中に我々は生きているという価値観を人類の中に啓発し、一人一人の心の中に復活をさせてゆくというのが富士宣言の目的であります。しかしながらこれは個人個人の宣言であると同時に、そういう意識をもって生きる人たちの数を増やしていくことによって、いかに今の社会、混迷した社会を本当に調和したものに転換してゆくかということがこの富士宣言のもう一つの大きな目的であります」。

2015_09

アーヴィン・ラズロ ブダペストクラブ創設者

「この富士宣言は、今の世の中の状況を考えてみても、新しい方向に向かって進むことが必要なこの時、まさに時機を得て宣言されたと私は思います。この200年というもの、私どもはこの地球上でどのような生き方、生活をしてきたでしょうか。どのような行動をとってきたでしょうか。とにかく発展しよう、開発しようという一途で歩んできたのではないでしょうか。それを振り返って、私たちの生き方そのものを考え直すその時がまさに今だと思います。アインシュタインが言った言葉に『問題を創ったのと同じ考え方でその問題を解決することは出来ない』とありますが、今まさに新しい思考が問われているのです。富士宣言がその答えだと思います。人はもって生まれた神性、善なるものをまた取り返す必要があるわけです。そして精神的に復興するということが必要だと思っております。富士宣言は科学の面で、精神的な面で、合理的な思考、考えの面で、深い所から私どもの神性を取り戻すことをさせてくれるのだと思います。それに関わることが出来て嬉しく思っております」。

これから世界が変わる予感に満ちた、そして私たち一人一人の世界へのコミットメントとも言えるご挨拶に、参加者は真剣な面持ちで聞き入っていた。

世界平和祈念 御献茶の儀

20150517_001華やかながらも粛々とした雰囲気は、茶道裏千家今日庵 第15代家元、千玄室大宗匠の御献茶の儀により、さらに厳かなものへと変化していった。 60年余にわたって「一盌からピースフルネスを」の理念を提唱され、道・学・実をもって世界中に茶道文化を広め、世界平和の実現に向けた活動を展開してこられた大宗匠が、この日は富士宣言の発足を祝し、舞台の中央に据えられた富士宣言の象徴たるエンブレムにお茶を献じてくださった。真心のこもったお点前に、お茶の香りが野外に漂ってくるかのよう。やがてエンブレムの前に一碗が呈され、御献茶という形を通した平和への祈りが空間に染み渡ってゆく。すべてが終わると、万感の込められた拍手が会場から湧き上がる。そのお点前は、見る人の拍手まで滋味深いものに変えてしまう。

各宗教・宗派の平和の祈り

続いて伝統を感じさせるさまざまな衣装を身にまとった宗教者10組が壇上に姿を現わし、各宗教の平和の祈りが披露されていった。 今回は、それぞれのお祈りを、まず宗教リーダーがお一人で捧げられ、その後「チャント(詠唱)」と呼ばれる短い祈りを、宗教リーダーと参加者が声を合わせて唱えるという形式で執り行なわれた。

こうして10組すべての祈りが終わると、最後に宗教リーダーお一人お一人がもう一度順番に中央に歩み出て、お一人でチャントを1回、唱える。さまざまな地、さまざまな人の想いを吸収し、それぞれのやり方で平和を願ってきた祈りが、一つに出合う瞬間である。チャントが唱えられるたび、その空間にふっと光が灯っては、透明な世界に溶け広がってゆくかのよう。

 

世界各国語による世界各国の平和の祈り 〜地球生命への感謝

作曲家の山本健一氏がこの日のために作ってくださったさわやかな音楽にのって、世界193ヵ国とその他のすべての地域のカラフルな国旗が会場の通路から舞台に向かって入場、参加者の間を通り過ぎてゆく。数えきれないほどの国旗が舞台の下で合流し、色とりどりに揺らめきながら一方向へと流れてゆく様子は国境を越えてつながり合う世界を想像させる。 2015_22 やがて舞台上で世界各国の祈りがスタート。舞台で凛と掲げられた国旗は、自国のために捧げられた祈りをしっかりと聞き届けた後、滑らかに翻り、舞台を後にする。

国情はさまざまであるが、ここではすべての国が全く平等に、それぞれの国の言語で「○○国が平和でありますように」と順番に祈られてゆく。その祈りに耳を傾けていると、国々の言語のリズムが協和的に響き合い、地球としてつながっているような一体感に包まれてゆく。

そして地球生命への感謝の祈り。ボーダレスな海、大地、山、空気……さまざまな自然現象へと、自分たちの感謝の言葉が行き渡ってゆく感覚が広がる。それは、これだけたくさんの自然に、今、生かされてここに自分たちが存在していることを実感できる貴重な瞬間でもある。

 

『富士宣言』発足式

まずは西園寺裕夫氏が、5月15日に東京で行なわれた富士宣言のフォーラムと、この日のSOPPに世界中から参加した31名の錚々たる活動家、科学者、芸術家などのお名前と、お一人お一人がどのような活動をされているかをご紹介。

2015_26 その後、いよいよ富士宣言の「一人一人の宣言」を読み上げ、この富士聖地に集まった人々、そして同時にインターネット中継でつながっている世界中の人々とともに、新しい文明への扉を押し開く瞬間が訪れた。最初に西園寺昌美氏が一人で富士宣言全文を日本語で唱え、続いて5名の賛同者が順番に歩み出て、英語で「一人一人の宣言」を一項目ずつ唱える。そして最後に参加者全員で意識を込めて、日本語で「一人一人の宣言」を声高らかに読み上げた。

2015_25

 

 

演奏:印と聖なる音のハーモニー

 

続いて行なわれた「印と聖なる音のハーモニー」が、ここまでのプログラムによって醸し出された神聖なひびきをさらに増幅させ、会場をワンネスのひびきで包み込んでゆく。これは宗教音楽のハーモニーを体感する演目で、音楽プロデューサーでもあるケンジ・ウイリアムス氏とクリスティン・ホフマン氏が再び舞台に登場し、演奏を交えて多重奏の調べをナビゲート。笙とバイオリンの典雅な調べで幕を開けた後、一面に凪の広がる会場の奥から扇を携えた袴姿の白光真宏会のメンバーが会場の通路と舞台に粛々と入場した。そして舞と印を披露した後、再び凪の中を無言で去ってゆく。

 

 

続いて、イスラム教スーフィズムのスーフィーリーダー、フマユン A・ムガール氏が朗々とアザーン(礼拝への呼びかけ)を披露。そして修験道の大橋慈峰氏(日本修験道文化研究会常任理事、天嶺山洞然坊住職)と有志の方々の法螺貝等による演奏、この演目の冒頭でも演奏してくださった天理大学雅楽部の方々による雅楽演奏。音によって彩られる世界、祈りによって創られる世界。次々と宗教音楽が迸り、まさに多様なリズムが一つの調和した世界を浮き彫りにしてゆく。 そしてホフマン氏が「メイ・ピース・プリヴェイル・オン・アース」や無限なる言葉で歌詞を綴った美しい歌を歌い、その一期一会のハーモニーは豊かな韻を残して消えた。

 

 

閉会挨拶

2015_35

西園寺由佳 会長代理

「戦後の日本から多くの会員の方々が世界の平和を祈りつづけてまいりました。その行為がたとえ賞賛されなくとも、賞賛どころか他に理解してもらえなくとも、私たちはひたすら祈りつづけてまいりました。何故なら、それが私たちの真実であるから。私たちの天命であり生き甲斐であるから。私たちの軸であり喜びであり、すべてであるから。 が、私たちの祈りとは反面に、この数十年、地上では平和とかけ離れた方向にどんどんと進んでゆきました。私たちがいくら祈っても、世界の対立は増えつづけ、人類の神性を信じても、地球の問題や人々の苦しみは増えてゆくばかりでした。まるで小さな一滴の真水が壮大な海に落ちるがごとく、その祈りは地上に存在する多くの不安や恐怖に呑み込まれ、いとも簡単に吸収されてしまうようでした。もっともっと祈り心を、もっともっと愛と感謝のひびきを、もっともっと神聖なる姿を、人類がまだ他の人の幸せを願い、他国の平和を祈れないのであれば、人類に代わって私たちが祈りつづけようと、人類が自らの中にある神性を、他の人々の中にある神性を見られぬのなら、人類に代わってその真実を見つづけようと、どんな困難に思えても、どんな不可能に見えても、それを選択し、実践しつづけたのが、ここにおられる皆様です。 でも、私たちはもうそれぞれの一滴の水滴ではなくなるのです。富士宣言が発足され、神性の意識は世界中に発信されることになりました。これからは一滴の小さな水滴は、他の多くの水滴とつながり、水たまりとなり、潮流となってゆくのです。世界中の多くの祈れる仲間、同じ意識を持つ家族と出会い、つながる時がやってきたのです。 今日のSOPPでは、それを現わすように、宗教を超えて、国を超えて、世代を超えて、分野を超えて、神性を信じる人々が集まってくださいました。神性のひびきが祈りとなって、音楽となって、印となって、一盌を通して、友情となって、可能性となって、現実となって、ここから響きはじめました。その新しい幕開けを皆様が創られたのです」

フィナーレ 合唱

温かな余韻の中で行なわれた最後のプログラムは、この平和のシンフォニーの最終楽章にふさわしい合唱曲「みんな輝く ディバイン・スパーク」。作曲はNHK大河ドラマや数々の映画作品の音楽で知られる渡辺俊幸氏、作詞は西園寺昌美氏、リードボーカルはソプラノ歌手の前川朋子氏、コーラスは地元の小学校の児童である。曲に合わせた身振り手振りで楽しげに歌う会場一人一人のディバイン・スパーク(神聖なる意識の復活)が可視化された光景。この美しい時間が終わるのを惜しむように合唱は繰り返され、最後は大きな拍手で締めくくられた。 2015_37 こうして、さまざまなリズムとハーモニーに彩られ、ワンネスの世界を一人一人が創り上げたSOPP2015は午後1時半過ぎに幕を降ろした。しかし、同時に新しい時代の幕は晴れやかに上がったのである。

「すべての文化、宗教が、それぞれの美しさと創造性を遺憾なく発揮した時、人類の壮大なオーケストラが奏でられるのです」——経済学者でありノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス氏はそのように富士宣言を語られた(富士宣言公式ホームページより)。一人一人の神聖なる意識の復活が高らかに謳われ、その一人一人が創る文明の指標が示された富士宣言。それを読むことで聖なるリズムは自分の中に躍動し、それを行動に現わすことで聖なるリズムがこの世界へと表現され、かけがえのないハーモニーが生まれるのである。 もし世界情勢を見て迷いが生じる時があっても、そんな時はぜひ「富士宣言」をご覧いただきたい。そこに開かれているのはあの日、皆で開け放った未来世界への扉であり、そこから神聖なリズムは常に流れ込んでくるのだから。

※ 富士宣言公式ホームページ http://fujideclaration.org/

このセレモニーの模様は、YouTubeのアーカイブ配信でご覧いただけます。 https://www.youtube.com/c/symphonyofpeaceprayers